響きあう詩

モレシャン  中谷 洋子 36歳 神奈川県  

響きあう詩

「マア、カワイイ、コノハコ、ナンデスカ?」
 モレシャンが私の家の居間に入ると、大きな声で言った。
「これ、仏壇だよ」
 ピカピカの小学一年生の剛(ごう)。得意になって教えている。
「エッ、ブツダン?」
「うん、そうだよ、これぼくのおじいちゃんなんだよ」
 剛は、仏壇の中からおじいちゃん(私の父)の位牌を取り出した。
「エッ、コレ、ゴウチャンノオジイチャン?」
「うん、今年の2月に死んじゃったの。ぼくが小学校に入るのを、とても
楽しみにしていたんだけど・・・」
「マア、ソウナノ・・・。モウチョット、イキテテクレレバ、ヨカッタノニネエー」
「そうだよ、でもおじいちゃんは仏壇の中からいつも僕を見ていてくれるん
だ。だから、ぼく、学校へ行く時は、いつも『おじいちゃん、行って
来まーす』って言うんだよ」
「ソウー。ゴウチャンエライネー」

 私はモレシャンと、剛のやり取りを聞きながら、涙が溢れてきた。
 今まで、仏壇のなかった我が家。結婚して共働き、出産、育児と、息つく
間もなく、陶然仏様に手を合わせる心の余裕もなかった。
 そこに突然の父の死。私は、早速団地サイズの小さな可愛い仏壇を買い求
めた。朝晩、その前に座り、線香を上げ、手を合わせた。父の死の悲しみを
乗り越えられたばかりでなく、何となく、私の心に「ゆとり」が生まれた。
“いつも仏様が見守っていてくださる”

 今まで、バタバタと家の中を走り回り、電車に飛び乗り、夫にイライラと
当り散らし、子どもにはケンケンと怒り・・・・。そんな毎日の私が仏壇を
買ってから変わったのだ。
“人間、いくらガタガタしても限度がある。もっと大きな力、仏様にお任せ
しよう。もっとゆったり生きよう。”
 母親が変わると、子どもも変わる。神経質だった剛も、のんびりしてきた。
夫も、優しくなった。我が家は、ゆったり円満となった。

 モレシャンは、パリから日本の大学に勉強に来ている留学生。大学の紹介
で、我が家に二泊三日のホームステイ。
「ワタシモ、ブツダンホシイ」
 突然、モレシャンが言った。
「えっ」私も夫もびっくり。
「ワタシノママサン、ワタシガミッツノトキ、シンジャッタノ。ママサンノ
シャシン、ブツダンニカザリタイノ」
 モレシャンは、首に吊るしたロケットをパチンと開けた。中には、美しい
若いフランス女性の写真。モレシャンのママだ。
 私も夫も、剛もシーンとした。
 モレシャンを連れて、私たちは仏具店に行き、可愛い仏壇を買って、彼女
にプレゼントした。
「メルシェ!メルシェ!」
 モレシャンは、涙を流して喜んでくれた。

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